つるのはしの理念


食品の品質は、磯部晶策氏が1950年代から提唱し、岩波新書刊「食品を見分ける」にもまとめられた食品品質の四条件をすべて満たすことが重要となります。

1. 安全で安心して食べられること(客観的に安全、主観的に安心であること)
1.1 食品添加物等について考えるとともに食品衛生の基本から安全を追求する
2 ごまかしのないこと
2.1 偽和、不当表示にとどまらず、一切のごまかしを排する
3 味の良いこと
3.1 化学調味料などによる安易な味付けに依存せず、原材料と技術の調和による美味を生みだす
4 品質に応じた妥当な価格
4.1 どんなに良くても、品質に比較して不当に高い価格は失格と考える

たとえすべての条件を満たす良い食品が見つからなくても、これらの条件をすべて満たすよう最善の努力を惜しまない生産者(メーカー)の食品を調味料として選ぶことは大切です。

卵を選ぶときに大切になるのは、飼育する親鶏の健康管理です。親鶏の健康状態は正直に鶏卵に反映するからです。繁殖を目的とする場合と、採卵を目的とする場合では飼料設計(栄養バランス)は異なるといいますが、生き物として育てる場合と経済動物として育てるのでは親鶏に大きな違いがあります。健康な養鶏を行うには、鶏舎の衛生環境はもとより、サルモネラ菌などの病気や寄生虫への感染に対する注意、密飼いなどによるストレスの排除、更には飼料へ含まれる薬品、着色料をはじめとする各種添加物の有無など、注意を要することが多くあります。また、卵殻の色だけで赤玉が好まれることがありますが、鶏の品種には古くから赤い卵殻の卵を産むものも、白い卵殻の卵を産むものもあり、それぞれ育種への取り組みの中で優れた遺伝子が受け継がれており、卵殻の色だけで評価することは意味がありません。また、有精卵を求める人も少なくありませんが、本来受精卵と呼ぶのが正しく、雌雄の割合が偏りすぎると単に雌雄同じ鶏舎で飼育するだけでは受精率が低く殆ど孵化しないといいます。

仮に受精していても、それが栄養的に優れているという科学的証明はありません。さらに各種栄養成分を飼料として特に添加した鶏卵も多くあり、こうしたものは市場価値を付加するという意味で高付加価値卵と呼びますが、栄養的には意味のないことが多いのです。このように鶏の健康と栄養を考えて飼料設計を正しくし、飼料を選ぶ際にも遺伝子組み換えや、ポストハーベストについても注意を払うことが大切です。

醤油の製法は17世紀初頭に定まったといわれますが、大豆、麦、塩と麹菌を原料として作られます。今でいう天然醸造丸大豆醤油で、品質の目安として含有する全窒素分が高く、しかも総合的に旨味のあるものが良質とされます。現在、醤油には脱脂加工大豆を使用するものや、太平洋戦争中、その後の原料不足時代に開発された新式2号醤油、アミノ酸醤油などもあります。戦後復興の兆しが見え始めた昭和30年代になると主婦の記憶にまだ残っていた天然醸造醤油の味が求められるようになり、現在では多かれ少なかれ伝統製法を取り戻した製品も出て来ました。

醤油のように材料に塩を利用した食品では、その容器にも製品の安定性を考えると壜や陶磁器がよいのですが、ペットボトルのようなプラスチック製品ではその組成が塩分によって解けだすのを完全に防ぐことは出来ず好ましくありません。製品の品質と販売上の利便性のどちらを優先するのか、その企業姿勢を見るうえでの目安になります。

近年の日本酒(清酒)は醪を絞った原酒に、廃糖蜜を醗酵させた醸造用アルコールのほか、有機酸、グルタミン酸ソーダやブドウ糖、水あめを加えて三倍以上に増量させる製法が主流となり、その後もアルコールを添加したアルコール添加酒とアルコールを限定添加した本醸造酒を合わせると80%ほどがそうした清酒で、本来の米と米麹と酵母で作る清酒は純米酒と呼ばれて区別されるようになりました。(米だけで作られても純米酒とは呼ばれない酒もあります。)

清酒を料理に利用するとき、純米酒の中でも自然のアミノ酸を豊富に含むものから作られる、甘過ぎず、ドライに過ぎぬ良質な料理酒は、原酒のままで使うと伸びがきき、料理の味に総合するとコストを低く抑えることもできます。

純米酒を原料とし、酢酸菌の働きによってつくられる米酢は日本の風土が生み出した伝統調味料です。米酢にも、純米酢のほか、江戸時代に開発された酒粕からつくる粕酢があります。伝統的製法による粕酢は酒粕を数年寝かせた踏み込み粕を使用するなど、時間を要することから、大量生産には不向きですが、その独特な切れ味は江戸風握り鮨によく合い利用されました。現在ではほとんど作られていない、こういう酒粕酢を赤酢と呼びます。純米酢は材料と製法とがまともであれば、そのまろやかさで関西風の料理に合います。こういう米酢を白酢といいます。ふつう添加物を使用しない料理ではこの白酢、赤酢の酢味が奥深い味わいを作りだします。

醸造酢は、醸造酒を原料とすることから、世界の各地で愛されつづけるさまざまな酒を原料としたワインビネガーやりんご酢など、その地方ならではの個性豊かな酢が存在し、私たちの食生活を豊かなものにしています。

こういう果実酢の品質規定が日本では厳しくないので本物は少ないようですが、山形県では磯部理念を綱領とする「さらど事業協同組合」によって特に純粋に「純粋な」りんご酢が作られています。

サトウキビを原料とした砂糖は、製法上糖蜜を含んだまま製糖する含蜜糖と、糖蜜を除く製糖法で作る分蜜糖に分けられます。分蜜糖は更に、車糖とザラメ糖に分けられます。それぞれ製糖過程で一番糖、二番糖というように砂糖を作っていきますが、これらの砂糖はそれぞれの特性を活かした利用がなされます。いわゆる三温糖は大体、四番、五番糖に当たります。ザラメ糖では白双糖、中双糖、グラニュー糖などが作られます。また、車糖の場合も最初の一番糖(上白糖)をとった後、分離して残った糖蜜を再利用して結晶させ二番糖、三番糖を作ります。このときカラメル成分が形成され少し褐色がかった色になりますが、このことが、本来含蜜糖である黒糖と、分密糖である車糖の三温糖とが混同される一因でもあります。三温糖を、黒糖を精白し白糖にする(こういうことはありません)中間と誤解されますが、実際は違いますし、市販されている三温糖にはカラメル(食品添加物)で着色されているものも少なくありません。また、ミネラル分が他に比べて多いとしても、その使用量を考えると微々たるものしょう。

含蜜糖である黒糖は、サトウキビを搾汁して煮詰め、石灰を加えてアクをとり、更に煮詰めて冷やし固めて作りますが、日本の主な生産地である沖縄県でも昔ながらの製糖場での作業はほとんど姿を消しました。今では主として沖縄本島以外の島々に残っていますが、観光市場に出回る「黒糖」と称するものの中には、黒糖に粗糖や糖蜜を加えて成分調整した加工黒糖や、廃糖蜜を材料とした再製糖などがあり本来の黒糖とは区別されます。

和菓子に利用される和三盆糖も含蜜糖に近いものですが、製造工程の最後の段階で分蜜されますので黒糖とは区別されます。ただしその差は微妙なものです。

人類が利用してきた塩は岩塩の利用が約60%と多数を占めますが、日本では海水を利用するものの現在では直接天日塩を作ることはほとんどなく、海水を採鹹(濃縮)し煎熬(煮詰める)する方法で海水塩が作られてきました。海洋汚染の進んだ現在では必ずしも海水を利用した伝統製法や天日塩が良いとは言えず、アメリカの一部の州や韓国では禁止されているほど、世界中どこの海でも安全性では問題をかかえています。一般に鉱物学上ミネラルと呼ぶとき、海水中にはヒ素、カドニウム、水銀なども含まれるためすべて無条件で人の役に立つとはいうことはないのですが、「古来の伝統製法」「手間暇を惜しまぬ作り」のようなうたい文句に偏重した評価がイオン交換膜法で作る純度の高い塩を敬遠するのを考えると、なにを選ぶかは個人の判断にゆだねるところが大きいのが現状です。塩化ナトリウム95%位の輸入海塩を原料とした並塩でさえ5%程度はミネラル分を含んでおりますが、輸入する天日塩にミネラル成分を添加したものや潮解性を防ぐために表面をコーティング(皮膜)するような加工がなされているものもあります。ちなみに国際食品規格委員会(FAOおよびWHOにより設置された機関)ではNaCl純度97%以上を食用塩として認めており、EUはこれを適用しています。

桃山時代には製法が完成したといわれる味醂は、酒粕または米から作った焼酎にもち米、米麹を仕込んでもろみを作り、麹カビの酵素を利用して糖化を進める日本特有の醸造法でつくります。味醂はもともと飲用として用いられていて、焼酎歩合の多いものは“直し”、“本直し”、“柳陰”などと呼ばれていました。調味料として料理に利用されるようになったのは明治時代以降と新しく、一般家庭に普及するのは戦後のことです。現在では飲みものとして利用する習慣は一部の地域を省いてほとんどなくなり、古典落語で耳にする程度にまで記憶から遠ざかっています。このような伝統製法による味醂は、原材料をアルコールや澱粉に置き換えた近代風みりんや、いわゆるみりん風調味料(醗酵みりん、塩みりんなどいろいろの名称があります)に比べ、控えめの量で味が調います。また魚料理などではマスキング効果によって生臭みを消し、料理の味を引き立てます。

食用油には植物油と動物脂肪とがあります。植物油は原料となる植物の種類によって名称がつけられるほか、サラダ油のように用途が名称となっているものもあります。その搾油方法は時代とともに変遷をしてきましたが、大きく分けると圧搾法と抽出法があります。圧搾法は文字通り圧力をかけて搾る方法ですが、搾ったあとにも滓(カス)にかなりの油分が残存するため、近年では原料に溶剤を加えて油分を溶出し、加熱して溶剤を揮発させ油分だけを分離する方法(抽出法)が主流となっています。抽出法は効率的に優れていますが、溶剤となるヘキサン類などには安全性の上で疑問点があり、工程上は揮発したノルマルヘキサンを回収して繰り返し使用することになっているものの、完全回収ではなく、95%程度が回収されていると言われます。また脱臭とともに溶剤を破棄させるのに必要な熱媒体に起因する事故(PCBに起因するカネミ油症事件など)も起きており、安全性には問題が残ります。

世界にはオリーブ、グレープシード、サフラワー、ヒマワリの種子、菜種、大豆、胡麻など多種類の食用油がありますが、いずれにも、良い品質のものもあれば劣る品質のものもあります。良い原料の油を選ぶことは大切で、酸化の具合など劣化状態や種子の遺伝子組み換え、ポストハーベストなど安全性の確認も必要です。

そのほか、常温でラードなどのように飽和脂肪酸を多く含む一般的な動物性脂肪や、不飽和脂肪酸を多く含むものが多い魚油にも多様な用途がありますが、原料品質や加工段階の純正具合によって品質差があります。

近海で漁獲されるカツオを伝統技法によるカビづけにより枯れ節としたものを選んで使用します。

その製法とは、原料の鰹を見分ける目利きから始まりますが、近海ものを一本釣りで獲ったものが、脂があまり乗りすぎず良質とされ、うま味が出ます。

太く短い合断包丁で切り分け、煮熟したあと、小骨一本残さず骨抜きをし、そのあと薪でいぶし焙乾しますが、その工程は一番火から乾燥の終わる十番火まで一日一工程ずつ連日室(ムロ)で行われ、上手に水分を抜いてゆくには手間を必要とします。出来上がった荒節を削ったものが「花かつお」で、この後蔵つきのカビつけをし、天日干しとカビを落として室にもどす工程を、ひと月ずつかけて繰り返すこと四回の後、さらに半年寝かせて枯れさます。理にかなった調味料の工芸品は世界一硬い食品といわれます。

北海道を中心に日本近海では真昆布、日高昆布、羅臼昆布、利尻昆布などの種類が採れます。上質の昆布が採れる浜は銘柄にも表示されますがそうした浜では需要に応えるため養殖も盛んで、近年の消費者志向では無名浜のものが「天然もの」を謳って求められることもあります。昆布の営養価にはそれほど差異はないといわれますが、品質によっては味の出方に顕著な差があり、上質な昆布は少ない量でも良質のだしがとれます。また、種類によって用途に向き不向きがあり、旨味のあるだしがとれる真昆布、澄んだだしには利尻昆布、煮昆布や佃煮には日高昆布、そのまま食べておいしい羅臼昆布など、上手に使い分けることが大切です。ただし、出しの取り方によって、それなりの旨味が出ますから、こだわりすぎる必要はありません。

日本で消費される胡麻の殆どは輸入されていますが、生産地での取り扱い方などにより品質に差があり、油では酸価 と呼ぶランクが決まります。また、品種によっても香りなどに違いがありますが、日本では白胡麻が主流で、黒胡麻、金胡麻なども利用されます。

日本の乾椎茸(しいたけ)は、古くから(平安時代に遡るといわれます)中国にも輸出され、その品質の高さが証明されていました。

椎茸には多くの品種がありますが、肉厚でうま味成分の高いものが良質とされ鳥取県にある社団法人日本きのこセンターの開発した菌興115号は優れた品種として注目されています。そのほか栽培地の気候や収穫時期などによっても品質に違いがあります。

椎茸の栽培はおもに原木に種駒と呼ぶ純粋培養をした椎茸菌を打ち込んだホダ木を山里やハウス で育てる原木栽培と、おがくずやトウモロコシの芯などで作る培地に薬剤や栄養成分を加え椎茸菌を植え付けて室内でつくる菌床栽培があります。近年は菌床栽培が増加し、乾椎茸では約半数が菌床栽培の椎茸といわれます。特に近年は中国からの輸入が増加しており、1980年頃には一万五千tほどあった国産の原木乾椎茸は今では三千t弱にまで減少し、かわって中国産の菌床椎茸や原木椎茸、さらには原木に種駒を打ち込んだホダ木を輸入して日本国内で育て国産椎茸として流通するものが増加しています。これら輸入椎茸では、ホダ木を輸入する際、虫の駆除を目的とした薫蒸をするために使用する薬剤に安全性の上で問題が残り、菌床栽培でも培地に加える各種薬剤や添加物に問題が指摘されています。

このような輸入椎茸が国内で流通する場合、見分けるのはとても困難ですが、日本きのこセンターでは検査により正確に見分ける技術を開発して監視をしています。

小麦は現在、世界で約6億トンが生産されていますが、そのうち日本の生産量は約0.1%で国内消費量の約10%を自給し、残りはアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入でまかなわれています。

小麦に含まれる蛋白質の主成分は水を吸収すると粘りのあるグルテンとなりますが、含まれる蛋白質の量が多いものはグルテンの力も強く、少ないものは弱くなります。小麦の品質は皮部細片の混入度(品位特性分類)によって等級に分けられ、灰分量 はその目安とされます。蛋白質の量やグルテンの性質はこうした産地や品種、等級によって微妙な差異があります。

小麦粉の用途はグルテンの力によって大きく4つに分けられ、それに対応して、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉 が作られます。蛋白質が多くグルテンの多いものを強力と呼び、少ないものを薄力と呼びます。

こうした小麦粉を作り出せる品質の原料小麦を選び、単独又は配合して製粉が行われます。

日本では北海道を中心として平野部の広い地域で栽培されていますが、軟質小麦がほとんどでたんぱく質の含有量が少なくその主成分により形成されるグルテンの力もよわいのでアメリカ、カナダ、オーストラリアからグルテンの力が異なる数種類の小麦を輸入し、国内産小麦と共に、用途によって使い分けしています。また、日本では強力、中力、薄力、全粒粉などに分けて市販されていますが、ヨーロッパや北米では家庭用小麦粉はほぼ1種類です。

カナダなどでは気候環境のうえで農薬などの使用が少なくて済みますが、日本は赤かびの汚染地帯となっているため注意を要します。そのため国内の製粉会社では、カビ毒の危険性から国外の品種へ切り替えたり、ブレンドしたりして対応しています。国内ではポストハーベスト農薬の問題が大きく取り上げられてきましたが赤かびによるカビ毒 の毒性を考えると総合的に判断することが重要となります。